本ページは、一般社団法人日本自動車工業会が発行している月刊誌「Motorcycle Information」2011年12月号の記事を掲載しております。
東日本大震災の発生以後、被災地に向けて支援活動を行っているライダーや二輪車に関連した話題が少なからず目にとまる。関西に住む有志のライダーが、支援物資を継続して届けたり、東北のライダー自ら「がんばろう!」と、1,000人規模のミーティングイベントを開催したり、震災と原発事故に直面している福島県でツーリング専門誌が読者を集めてキャンプを楽しむなど、さまざまな形で支援の輪が広がっている。モータースポーツの世界でも、二輪、四輪の枠を超えて募金活動が展開され、二輪車メーカーや二輪車関係団体も復興支援を行っている。
東日本大震災が日本を襲った(3月29日撮影)
2011年は、地震、津波、台風、原発事故など、大災害が日本を揺るがした。被災地には全国から義援金や支援物資が集まり、被災者のケア、被害家屋の片付けなど、さまざまなボランティア活動が続いている。
東日本大震災について、本誌は5月号で現地の被災状況をレポート、6月号では災害救援ライダー組織の活動などを報じてきた。その後も、一般ライダー、二輪車業界、二輪専門誌など、バイクに関係する各方面からの被災地支援が広く行われており、今回はそうした活動の一端を引き続き紹介したい。新しい年に向けて、被災地の生活が1日も早く元に戻るように願っている。
震災後の報道をみると、東日本大震災の被災地に向けて支援活動を行っているライダーや二輪車関連の話題が少なからず目にとまる。
震災直後には、バイクによる情報連絡、食料・医療品等の物資供給など、とくに災害救援活動にその機動力が活かされた。3月末には、二輪車の販売店組合が現地に赴き、車両のパンク修理や、避難所で人々の要望を聞いて対応を行うなど、被災者の生活支援に重点を置いたボランティアを実施した。
4月以降になると、全国各地でライダーによる復興募金やチャリティーイベントが盛んに行われ、5月の連休には、津波の被害を受けた家屋の泥かきや片付けなどを手伝うボランティアライダーの姿もあった。さらには、全国各地の二輪車愛好家や販売店から、原付などを現地に寄贈する支援も行われている。
そうした数々の取り組みは、メーカー、販社、販売店など二輪車業界によるもの、二輪専門誌、モータースポーツ関係者が呼びかけているもの、一般のライダーが個々に、あるいは仲間同士で行っているものなど、規模や形態はさまざま。しかし、「被災地のために役立ちたい」という思いはみな同じで、バイクを介した人と人とのつながりが、支援のネットワークを広げている。
ワゴン車にぎっしり積まれた支援物資
オフロードバイクで道なき道を走破するモータースポーツ、"エンデューロ"。神戸市の尾仲敦志さん(40歳)は、趣味のエンデューロを活かした社会貢献を実践したいと、今年2月に「MotorCycle Force」(MCF)という組織を発足。仲間と一緒に、バイクを使った地域活性化やスポーツ学習、災害時救援といった活動を模索していた矢先、東日本大震災が発生した。
「阪神・淡路大震災を身近に経験していたこともあって、とても他人事ではない、早く救援に行きたいという思いが募りました」と、尾仲さんは振り返る。バイク仲間からも「被災地のために何かしたい」という声がたくさん届き、「ならば、支援物資の輸送を自分が引き受けよう」と決意したという。
尾仲さんは、物資支援で大事なのは"何が必要とされているか"だと考え、仙台市のバイクショップに連絡を取り、現地ではどんなものが足りないか、細かい情報を収集。MCFのブログを通じて、エンデューロ関係者を中心に、義援金や物資の協力を呼びかけた。
すると全国各地のエンデューロライダー、関西の二輪車販売店から予想以上の反響があり、100人を超える人たちからお金や品物が集まった。水、食料、衣類、さまざまな生活用品、ベビー用品、暖房器具など、ワゴン車2台に満載。神戸から1,000km以上ひた走り、4月11日、宮城県の牡鹿半島にある漁村や集落の避難所に届けることができた。
支援物資に喜ぶ被災地の人たちと尾仲さん
(左から2人目)
「バイクショップの方々の協力で、支援の手が十分に届いていないエリアを案内してもらいながら物資を配りました。街では店が再開していても、そこまで買い物に出かける足も力もない高齢世帯が多いんです。現地に行ってみて、必要な人に必要なものを届けることができたのがよかった」と、尾仲さん。
2回目の支援活動は、6月下旬。やはりライダーのネットワークを使って、多くの野菜、味噌、醤油、乾麺などの食料品と、近しいバイクショップからは中古の原付8台が提供され、尾仲さんはレンタルしたトラックに物資を積んで再び宮城県へ。提供された8台の原付は、生活の足に不自由している世帯に寄贈して、たいへん喜ばれたという。
8月下旬に実施した3回目は、被災地に大量に発生したハエや蚊を駆除する防虫・殺虫剤、草刈り機、損壊家屋を片付けるためのチェーンソーなどを集めて輸送。10月上旬に実施した4回目は、防寒に使う発砲スチロールの板、こたつ、電気毛布、灯油など、寒さ対策の品々を集めて仮設住宅を訪問した。
尾仲さんは、「こうしたことがやれたのは、ライダーのつながりが強いから。バイクを仲立ちにして縁が広がって、多くの人に協力をもらっています」と話す。5回目は、クリスマスに間に合うように、被災地の子供たちにプレゼントを届けたいと準備している。
会場には続々とバイクがやってきた
二輪車の楽しみの一つに、ライダーが個々に目的地をめざして現地で集まる"ミーティング"といわれるツーリングがある。
「東北鐵馬会」は、岩手県紫波町に住むバイク愛好家・石田義信さん(50歳)の呼びかけによるライダーの集い。「メーカーや種類を問わない"ノンジャンル"のバイク愛好会」をうたって、2004年から同県沢内村にある銀河高原ホテルを会場にミーティングを開催。毎年、東北各県を中心に大勢のライダーが集まる人気イベントとなっていた。
ところが、開催を重ねるうちに、石田さんはイベントの"マンネリ化"を感じ、惜しまれながらも2009年に「休止」を宣言。それから2年経ったところで大震災が起きた。
「ミーティングに参加してくれた多くのライダーやバイクショップが被災して、津波で愛車を失った方、亡くなった方もおられます。その後の連絡が取れないという仲間同士の声も多かったため、生存報告、近況報告の機会を作ろうと、鐵馬会の"再会"を旗印に、復興支援ミーティングを開くことにしたのです」
6月12日、「がんばれ東北!」のノボリが並び立つ会場に、続々とライダーがやってきた。東北の内陸部からはもちろん、三陸沿岸の津波被災地域からも、関東、関西の遠方からも。その数は約1,500人。バイクの数は1,000台以上になった。会場では、従来のような賑やかなアトラクションは行わず、晴天の下、穏やかな時間を過ごし、チャリティーに応えて多くの義援金も集まった。
石田さんは、「たくさんのライダーに集まってもらって、お互いの再会を喜び、『被災地を支援する』という団結した気持ちになれたことが嬉しかったですね。心配していた沿岸部のライダーたちがバイクに乗ってやってきたときは、胸が詰まる思いでした」と話す。
記念に撮った写真をみると、バイクという"鉄馬"に乗る人たちの連帯が、この日、東北のライダーたちを大いに元気づけたようにみえる。
福島に大集合した『Out Rider』の読者
国内には数多くの二輪専門誌が発行されているが、震災後は各誌とも被災地支援を目的とした記事を企画し、読者ミーティングを開催して募金活動を行うなど、さまざまに取り組んでいる。
『ミスターバイクBG』では、4月に長野県上田市で読者イベントを開き、チャリティーオークションを実施。集まった義援金を岩手、宮城、福島にそれぞれ寄付した。『BikeJIN』は、5月に群馬県伊勢崎市で読者イベントを実施、被災地支援の募金活動を展開した。『Girls Biker』『モトモト』などを発行する「造形社」は、来る12月25日(日)に埼玉県川越市で「4誌合同チャリティ撮影会」を行なう予定。
一方、『別冊モーターサイクリスト』では、編集スタッフが現地のボランティアに参加し、被災地の暮らしをレポート。『ビッグバイククルージン』などを発行する「スタジオタッククリエイティブ」は、印刷会社と協力して被災地に義援金を送るなどの活動を行っている。
震災と原発事故の被害に直面している福島県で、読者ミーティングを開催したのは、ツーリング専門誌の『Out Rider』。9月18日~19日に、同県小野町の「緑とふれあいの森公園」でライダースキャンプを行った。そもそも福島には、磐梯や阿武隈など魅力的なツーリングコースがあり、強い愛着を感じるライダーは多い。今回の被害に心を痛める人たちが、「訪れることで力になれるならば」と、遠くは関西からも含めて約250人が参加した。当日は天候に恵まれ、豊かな自然のなかでチャリティーバザーを実施。参加者は、地元のライダーの被災体験にも耳を傾け、語りあった。
このミーティングを企画した同誌編集長・菅生雅文さんは、「ここでいま何が起きているか、自分の目で見て、耳で聞いて、本当のことを知ることができます。とくにバイクという乗り物は、肌身で現実を受け止める面がありますから、被災地で感じることは多いと思います。全国のライダーに、これからまた東北をツーリングしてもらって、被災地への共感をもってほしい」と話す。
そして福島県では、こうして積極的に同県を訪れるライダーを歓迎して、ツーリングのための観光情報サイト「Fukushima Rider's ナビ」をWeb上に立ち上げた。ぜひ多くのライダーに情報をチェックしてもらいたい。
子供たちがサーキット走行を体験した
震災後、モータースポーツ界では、二輪、四輪のカテゴリーを超えて、被災地支援の募金活動を盛んに行っている。
まず、国内で二輪車のレース活動を統括している財団法人日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)では、震災の義援金口座を設けてホームページなどで募金を行ったほか、ロードレース、モトクロス、トライアルなどの競技会場では、ライダーらが率先してチャリティーオークションを開催。人気選手のサイン入りウェアやさまざまなレース用品などを売り上げ、MFJを通じて日本赤十字社に寄付している。
とくに、宮城県のスポーツランドSUGOでは、MFJ全日本ロードレース選手権が開催された8月28日に、「サーキット・トイラン」を行った。"トイラン"の"トイ"は"おもちゃ"のこと。レース観戦に来るライダーが、被災地の子供たちに玩具や文房具などのプレゼントを持ち寄るという趣向のチャリティだ。会場には、被災地の子供たちが招待され、トイラン・ライダーの後ろに乗せてもらってサーキットを走行体験するなど、わくわくするようなひと時を楽しんでいた。
一方、二輪も四輪も"モータースポーツ界が一つになって支援に取り組もう"という趣旨の「SAVE JAPAN ~今、僕たちにできる事~」というプロジェクトが、たいへん大きな反響を得ている。
これは、四輪のスーパーGTで活躍しているレーシングドライバー脇阪寿一さんが呼びかけているもの。国内外の150人にものぼるバイクレーサーおよびレーシングドライバー、多数のレース関連企業が賛同し、震災復興の募金を広く呼びかけているもの。ホームページでは、各賛同者のメッセージが紹介されており、10月13日までの寄付金額は、約1億4,000万円に上った。
脇阪さんは、「震災の復興支援は、けっして"ブーム"で終わらせてはいけません。私はほとんど"ライフワーク"に近い取り組みになると考えています。被災地への関心が薄らぐことがないように、これからの支援が大切です。引き続きご協力お願いします」と、熱い気持ちで呼びかけている。
ここまで、バイクやモータースポーツに関わる人たちのさまざまな被災地支援をみてきたが、カワサキ、スズキ、ホンダ、ヤマハの二輪車メーカーも、震災の被災地に対して義援金の寄付を行い、二輪車、軽トラック、重機などの車両、発電機などを寄贈している。さらに、各社が開催するバイクイベントや試乗会などでも、募金活動やチャリティーオークションなどが企画され、集まった義援金は日本赤十字社などを通じて被災地に送り届けられている。
イベントで募金に協力する男性
また二輪車関係団体では、震災直後に全国オートバイ協同組合連合会(AJ)が、被災現地の災害対策本部に協力し、二輪車を活用して住民の安否確認や食料、医療品の搬送・供給を行ったほか、現地で一般車両のパンク修理などのボランティアに従事。さらには、加盟の販売店が被災地に向けて中古の原付を寄贈するなど支援を続けている。このほか、NMCA日本二輪車協会では、北海道、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の各支部と連携して、ホームページやバイクイベント、会員販売店での募金活動を行い、被災地の復興を願って日本赤十字社に義援金を寄付している。
ここまでみてきたように、一般のライダーからメーカーなど企業も含め、二輪車に関係する人たちのネットワークがもつ力はけっして小さなものではない。大災害に見舞われた地域・人々の暮らしが一刻も早く元通りになることを願って、2011年を締めくくりたい。
本ページは、一般社団法人日本自動車工業会が発行している月刊誌「Motorcycle Information」2011年12月号の記事を掲載しております。