本ページは、一般社団法人日本自動車工業会が発行している月刊誌「Motorcycle Information」2012年6月号の記事を掲載しております。
NMCA日本二輪車協会では、同協会が把握できた全国の二輪車通行規制路線の227路線についてWebサイトを通じ紹介している。そうした規制のなかには、ライダーを困惑させるものも。東京・新橋のアンダーパスは"うっかり進入"のライダーが後を絶たない。横浜ベイブリッジは125cc以下通行禁止、かたやレインボーブリッジは125ccの通行は可能。宇都宮市の「大通り」は、夜間になぜか120cc以上の二輪車を一斉排除。茨城では、筑波山への二輪車のアクセスが複雑に規制され、ライダーは心から観光を楽しめないなど、不満の声も聞こえてくる。
標識の正式名称は
「二輪の自動車・原動機付自転車通行止め」
バイクを運転していると、二輪車通行禁止の標識に出くわすことがある。うっかり見落としたり、ついついクルマの流れに乗って進入してしまったら、もちろん交通違反。取締りを受ければ2点減点で、6,000円(原付は5,000円)の反則金が課される。交通規制にはそれぞれ必然性や目的があり、それをしっかり守ることで交通の秩序と安全が保たれている。しかし、二輪車通行禁止の現場を見てみると、なかにはライダーを困惑させるような"疑問符つき"の規制もあるようだ。
二輪車業界団体の一つであるNMCA日本二輪車協会のWebサイトに、「二輪車道路規制情報」というコーナーがある。ここには、同協会が把握したものだけでも、東日本73路線、西日本154路線、合計227路線の二輪車通行規制路線が一覧化されており、規制区間や規制時間などが紹介されている。
この情報は、2001年に同協会が『二輪車通行規制全国調査』を行い、当時確認できた全国254カ所の規制路線をもとに、その後、一般のライダーからの情報提供などにより更新を重ねてきたもの。
交通規制は、原則的に地元公安委員会が常に見直しを行って変化しているため、一般のドライバーやライダーが最新の規制状況を知るには、現場で標識を確認するしかない。このためNMCA日本二輪車協会が提供している情報は、不完全な部分はあるものの、たいへん貴重な資料となっている。
NMCA日本二輪車協会統括事業管理部の依田英二朗さんは、「二輪車の通行禁止規制は、暴走族対策やローリング族対策、近隣住民からの要望などで実施されていることが多いのですが、なかには規制の開始から長い年月が経過して、実態にそぐわなくなった路線もあるようです」と話す。
実際のところNMCA日本二輪車協会には、一般のライダーから「二輪車の通行が禁止される理由がわからないので調査してほしい」といったリクエストが毎月何件か届く。依田さんは、「そうした声が絶えないのは、古くからの規制が形骸化しているなど、何らかの問題があるためだと考えられます。規制の目的が薄れ、ライダーの便益を阻害している路線については、規制解除を検討すべきです」と、訴える。
もっとも、規制の一覧を見るだけでは、どの路線にライダーの不満があるか、さらにはその規制が不合理なものかどうかは判断のしようがない。そこで、首都圏で実施されている二輪車通行禁止路線をいくつか訪ね、実際の交通状況を眺めてみた。
新橋地下自動車道」の入り口
「新橋地下自動車道」は、東京都港区の第一京浜(国道15号)から中央区の昭和通り(都道316号)に抜ける約500mのアンダーパス。1983年2月に規制が導入され、終日、すべての二輪車の通行が禁止されている。規制の理由は、地下道に入ってすぐ右へ急カーブするため、「二輪車事故を誘発する恐れがある」というもの。過去には事故も発生しており、規制を見直すには道路設備の安全確保も必要だが、そこに手が着いていないため、長年にわたって規制は維持されたままとなっている。
高架には規制を知らせる横断幕
この場所は、銀座に通じる幹線道路だけあって、平日・休日とも交通量が多く、二輪車も頻繁に行き交っている。この付近をよく走るライダーは、アンダーパスが通行禁止であることについて、「慣れているからべつに困らないけど、知らずに入って、出口で白バイに取締りを受けている人はよくいますよ」と話す。
試しに1時間ほど定点観測したところ、7台の二輪車がアンダーパスに進入していった。もちろん"うっかり進入"を防ぐため、入り口のずっと手前から「この先250m新橋地下道」と、通行規制を知らせる標識が立っている。さらに、鉄道の高架にも横断幕を掲げて、「二輪車・原付通行止め 新橋地下道この先200m」と、重ねて注意を促している。
直前で規制に気づき転回するライダー
地下道の出口で違反二輪車を取締る
しかしそれにもかかわらず、標識や横断幕が目に入らないのか、交通の流れに乗ったまま、クルマと一緒に進入してしまう二輪車がけっこういる。なかには直前で気づいて後ずさりで引き返してくるなど、かえって危険な状況に身を晒しているライダーも見受けられた。
横浜ベイブリッジ・国道357号への入り口(本牧ふ頭側)
※車両通行止めの補助標識に「自二輪(125cc以下)原付・小特・軽車両」とある。
ベイブリッジが通れれば、バイク通勤も大幅に時間短縮できると話す(地元ライダー)
NMCA日本二輪車協会のWebサイトに、一般のライダーから次のような情報メールが届いた。「横浜ベイブリッジ下層部の国道357号は、原付二種(50cc超~125cc以下)の通行が禁止されています。ところが、レインボーブリッジの下層部は原付二種も通行できるんです。ベイブリッジも原付二種の通行を解禁してほしい」というもの。
「横浜ベイブリッジ」は、横浜市の本牧埠頭と大黒埠頭を結ぶ長さ860メートルの吊り橋。2層構造となっており、上層部は首都高速湾岸線として、下層部は国道357号として供用されている。ライダーの指摘の通り、首都高速と同じく、下の国道も125cc以下の二輪車は通行禁止とされている。ライダーのメールには、「バイクだと、交通量の多い国道15号や産業道路を走るより、橋を渡ったほうがむしろ安全だと思う」ともあった。
本牧埠頭を訪ねてみた。国道357号は、ブリッジのかなり手前にある首都高の入り口に近い交差点から二輪車規制をかけている。地元の原付ユーザーに話を聞くと、「湾岸の会社に勤める人は、通勤にバイクを使う人が多いですよ。私も磯子区から大黒埠頭まで原付で通ってるけど、だいたい40分はかかります。ベイブリッジが通れたら、たった15分で行けるのにね。バイク通勤の人たちはみんなそう思ってますよ」という。
一方、東京の芝浦とお台場を結ぶ長さ約800メートルの吊り橋、「レインボーブリッジ」も2層構造。上層部は首都高速11号、下層部には都道482号となっている。そして二輪車は、排気量50cc以下の原付一種のみ通行禁止。ベイブリッジでは通行が禁止されている125cc以下の原付二種は、走行が認められている。同じような橋なのに、「東京では渡れるけれど神奈川では渡れない」というのは、確かに釈然としないものがある。
120ccを超える二輪車は通行禁止(22時~5時)
二輪車はどの路地からも大通りに出られない
栃木県宇都宮市のJR宇都宮駅前にある「宮の橋」付近から「本町交差点」方面に延びる「大通り」(県道10号)は、一般のライダーには不可解な交通規制が1.2kmにわたって敷かれている。「二輪車通行止め(22時~5時)排気量120cc以下を除く」というもの(標識には表示されていないが、指定車・許可車も除くことができる)。この通りは、商業施設やビジネスホテルが並ぶ目抜き通りのため交差する路地は数多く、二輪車はその時間帯にはすべての路地から「大通り」に進入することはできない。
規制の目的は"暴走族対策"で、深夜の「大通り」から、暴走行為を行う二輪車を締め出すこと。しかし同時に、排気量120cc以上の善良な二輪車も、駅前の大通りからすべて排除されることになる。
この規制は、1985年に導入されたもので、すでに規制の役目が終わっているようにも思えるが、栃木県警では、「いまも単発で走る暴走族のために取締りを行う必要がある」としており、そのために一般のライダーはルールを守らなければならない。深夜の数時間にせよ、目抜き通りを通行できないとなると、周辺の細い路地をうろつくことになり、安全面からも好ましいとはいえない。とくに「大通り」に面したホテルなどに二輪車で訪れた場合、駐車場の構造によってはその時間帯の入・出庫ができなくなる。
また"120cc以下を除く"という排気量指定についても、120ccを境にする意図がよくわからず、原付二種ユーザーを「なぜ?」と、いぶかしがらせている。
ドライブには最高の「筑波パープルライン」
日本百名山にも数えられる筑波山(茨城県)には、山頂付近までケーブルカーやロープウェイが敷設されており、休日には大勢の観光客で賑わう。
ロープウェイまでのアクセスは、クルマならドライブルートとして人気のある「表筑波スカイライン」と「筑波スカイライン」を利用するのが便利で快適。かつては有料道路だったが、2006年4月に無料開放され、現在は両方合わせて「筑波パープルライン」(県道236号・筑波公園永井線)として供用されている。
「こりゃダメだ」とジェスチャーするライダー
しかし、二輪車で筑波山の観光を楽しむとなると、ちょっとわずらわしい思いをすることになる。この一帯はローリング族(峠道を周回する違法競走型暴走族)対策のため、二輪車の通行を厳しく制限しており、走行できる路線が限られているからだ。
たとえばパープルラインのうち、旧「表筑波スカイライン」の部分は二輪車が終日通行止め。旧「筑波スカイライン」の部分は、19時~8時を二輪車通行止めとしている。また、土浦市方面からパープルラインにつながる「フルーツライン」も、二輪車は終日通行止めとなっている。
こればかりでなく、つくば市の「筑波参道入り口」から筑波山へ向かう県道42号は、19時~8時を二輪車通行止め。湯袋峠から筑波山に向かう農道は、終日の二輪車通行止めだ。
つまり、二輪車による山頂方面へのアクセスは、まさに"がんじがらめ"に制限されている状態で、道路と規制に不案内なライダーには、麓からロープウェイまで迷わずたどり着くのは難しい状況だ。
フルーツラインの入り口(規制開始地点)で、地図を見てルートを検討していたライダーグループは、「このへんは、いったいどこを走ればいいんですかね。筑波山に登るための迂回ルートがよくわからないんですよ」と困惑していた。本来ならば最も快適に走れる観光道路を目の前にして、「引き返すしかない」というのが結論だ。
多摩湖外周道路の入り口・二輪車は終日通行禁止
ツーリングライダーが気の毒と話す室岡さん
通行止めの案内看板を確認するライダー
(相模湖町付近)
筑波山以外にも、ローリング族対策を目的にした"二輪車通行止め"は多くの路線で実施されている。東京都東大和市の多摩湖周辺も、そうした理由で二輪車の通行を厳しく制限しているエリアのひとつだ。
西武園ゆうえんちのある「遊園地西駅」近くの交差点から、多摩湖の北側を湖畔に沿って走る「多摩湖外周道路」は、約5kmにわたって二輪車通行止め(終日規制の区間と、22時~5時規制の区間がある)。多摩湖の南側を通る「多摩湖通り」も2.8kmにわたって二輪車は終日通行止めとなっている。ほかにも、これらの路線にアクセスするいくつかの道路に二輪車の通行規制がかけられており、規制をよく知らないと、行きたい方面になかなか進めないということになる。
多摩湖近くのバイクショップ「だるまモータース二輪」は、ここで営業を始めて35年以上になる。社長の室岡隆治さんは、「一時バイクの事故が増えて、ずいぶん昔に通行禁止になったんです。もう当時のような暴走族もいないし、もし規制が解除されれば、埼玉側と東京側の行き来がしやくすなって、バイク通勤や買い物がだいぶ楽になるでしょうね」と話す。
多摩湖外周道路の規制が開始されたのは1984年のこと。そのころといまとでは、二輪車の利用状況や事故状況は大きく変化しており、規制の内容を再検討すべきだと室岡さんはいう。「とくに土日などは、この辺りをツーリングしにきて、つい標識を見落として、取締りにあっているライダーがけっこういます。ちょっと気の毒ですね」とのこと。確かに、規制の目的と取締りの実態にズレが生じているのかもしれない。
このほかローリング族対策では、東京都八王子市から神奈川県相模湖町に通じる「大垂水峠」(国道20号)の規制が古く、土曜・日曜・休日は125cc以下の二輪車の通行を禁じている。しかしながら、125cc以下の二輪車は、生活の足として利用されているものがほとんどで、規制の趣旨が理解しづらい。
こうしてみると、暴走族やローリング族対策としての二輪車規制の多くは、すでに形骸化している可能性もあり、全体的に規制の合理性を点検する必要がありそうだ。
本ページは、一般社団法人日本自動車工業会が発行している月刊誌 「Motorcycle Information」2012年6月号の記事を掲載しております。