本ページは、一般社団法人日本自動車工業会が発行している月刊誌「Motorcycle Information」2015年8月号の記事を掲載しております。
業界団体が開設した「二輪車の通行禁止区間」に関するWebサイトに、ライダーの意見が続々と寄せられている。バイクの通行が全面禁止の新橋地下道、125cc以下のバイクが走れない横浜ベイブリッジの一般道、行楽シーズンにバイクを規制する箱根旧街道など、ライダーが規制解除してほしいという路線の現場を調査。なかには規制実態が失われているようなケースもあった。
「バイクだけ通行禁止にされるのは納得できない」——ライダーに不満の声が上がっている。二輪車業界の調査で、自動二輪車や原付の通行を禁止している道路区間が、全国に700カ所以上あることがわかった。なかには古くからの規制のために現在の交通実態からかけ離れていると思われる規制もある。見直してほしいと要望の上がった禁止区間のいくつかについて、規制状況がどうなっているか現場を訪ねてみた。
二輪車の通行禁止について調査しているのは、一般社団法人日本二輪車普及安全協会(日本二普協)。同協会のWebサイトには、「二輪車通行規制区間情報」というページがあり、“二輪車に限って通行が規制されている道路区間”に 関する情報を集めて、都道府県別に「路線名」「所在地」「対象車両」「規制時間」を紹介している。その区間数は、全国で700カ所以上にもなる。
二輪車通行規制の情報ページ
日本二普協のWebサイト
このサイトは、十数年前から独自調査をもとにデータを蓄積してきたものだが、今年1月に全面的にリニューアル。全国の警察本部から規制情報の提供を受け、規制区間を示した地図と、入口・出口付近の写真が閲覧できるように工夫した。また、閲覧者からは、それぞれの規制区間に対する意見や要望を同協会宛てに送信できる機能を付け加えた。
日本二普協理事の三澤禎人さんは、「二輪車の通行禁止に関する情報は、一覧になったものが公開されていないので、まとまった情報源としては唯一のものだと思います。こうした規制があることをライダーに知ってもらって、ツーリングの前にあらかじめ規制区間をチェックしておくなど、役立ててもらいたいと考えています」と話す。
リニューアル後はアクセスが増加し、規制区間に対する意見や要望が続々と届いている。今年3月下旬から7月20日までの約4カ月間で、500件以上に達しているという。
「実名を条件に意見を受け付けていますが、予想以上の反響で驚いています。ライダーが不便に感じたり不満に思っている規制はけっこう多く、それがどの区間なのかだんだん分かってきました。意見や要望は、それぞれの規制を管轄する都道府県警察に提供したいと思います」と三澤さんは話している。
新橋地下道入口・上野方面は地下道へ
東京都内には69カ所の二輪車通行規制区間がある。そのうちの一つ、港区二丁目にある新橋地下道(都道316号)に行ってみた。
この地下道は、新橋から上野方面へと向かう片側2車線のトンネルで、第一京浜と昭和通りを結んでいる。二輪車は終日通行禁止のため、上野方面を目指すライダーはこの地下道を避けて、新橋交差点を右折し、昭和通りへと合流しなければならない。ところが、新橋交差点には上野方面を示す右折の案内標識がないため、土地勘がないライダーはここで混乱してしまう。
新橋交差点・上野方面の表示がない
付近にいたバイク便のライダーに話を聞くと、「地下を通れるようになればだいぶ便利になりますよ。新橋交差点は交通量が多くて、交差する部分が広いから、慣れていないと右折するのが難しく感じます。あの交差点をパスできるのはありがたいと思いますね」という。 警視庁交通規制課によれば、この地下道は1968年から二輪車を通行禁止にしている。規制の理由は、「進入路が急な下り勾配で、入口からすぐに急カーブになっており、道路の幅員も広くないため、二輪車が重大事故を起こす恐れがあります」と、説明している。
新橋地下道の入口
新橋地下道の内部を見るため、タクシーに乗車してトンネル内を走ってもらった。確かに、進入路を下っていくと、入口からすぐ右に大きくカーブしている。この道をよく通っているというこのタクシーのドライバーは、「ここは入口が暗いから、スピードを出して走っていくと、思いのほかカーブが急なので危ないということでしょう。入口の照明をもっと明るくして、トンネルのカベにもっと目立つ急カーブの警告を出せばかなり違うでしょう。禁止するより安全対策をやってくれたほうが、私たちクルマにとってもいいことだと思いますね」と話す。
入口直後に大きく右にカーブする
誤って地下道に進入したバイク
ちなみに1時間ほど定点観測したところ、この地下道に誤って進入したバイクは4台もあった。このときは小雨だったから、バイクの通行量が多い晴天ならもっと数が増えるだろう。“危険な地下道”をうっかり通行しているバイクは相当数あるということだ。一方、規制を守っているライダーを観察してみると、地下道の入口手前でとっさに進路変更したり、昭和通りへの合流でトラックの間に割り込むといった行動をとっており、迂回したことでむしろリスク局面を増やしているようにもみえる。
そうした全体的な交通環境から判断して、地下道の安全対策と規制解除をセットで検討してみる価値はありそうだ。
地下道の出口では再びバイクが合流
レインボーブリッジの一般道入口「原付」の通行が禁止されている。
レインボーブリッジの下層部道路
横浜ベイブリッジ入口(車両通行止めの補助標識に「自二輪125cc以下」とある。)
ベイブリッジの下層部道路
日本二普協にはこんな疑問も届いていた。「東京のレインボーブリッジは125ccクラスのバイクが通行できるのに、横浜ベイブリッジは125ccクラスが通行できません。同じような橋なのに規制が異なるのはなぜ?」
レインボーブリッジもベイブリッジも二層構造になっていて、橋の上層部はいずれも首都高速道路(以下「首都高速」)が通っているが、これは自動車専用道路なのでそもそも125cc以下の二輪車は通行できない。しかし下層部の道路は、どちらの橋にも一般道路が通っている。レインボーブリッジの場合、下層部は都道となっており、自動二輪車は通行可能だが、原付(50cc以下)は通行禁止。一方、ベイブリッジの下層部は国道357号となっており、こちらは原付に加えて125cc以下の自動二輪車も通行禁止となっている。
この点について神奈川県警察本部交通規制課(以下「神奈川県警」)は、「国道357号は、大黒ふ頭で首都高速と一部接続している部分があるため、125cc以下の自動二輪車を規制する必要があります。また、この路線は大型車の混入率が高く、橋梁部で風の影響が大きいことも車両を規制している理由になります」と、話す。
大型車の混入率や風の影響について、レインボーブリッジではとくに問題が起きている様子はないが、「首都高速と接続している」という点は、確かにレインボーブリッジとは異なる。
大黒ふ頭の首都高速インターチェンジ付近
そこで、横浜ベイブリッジの下層部を通る国道357号が、どのように首都高速と接続しているのか確かめるため、大黒ふ頭へ行ってみた。地図のA地点が首都高速(大黒ふ頭料金所)への入口。写真①はその入口から料金所方向を写したもので、料金所の100mほど手前に自動車専用道路の標識が設置してある。このため、料金所までの道路(国道357号)が自動車専用道路になっている。ここが“一部接続している部分”というわけだ。
①左側に自動車専用道路の標識
②国道357号と首都高速の接合部分
③橋へ向かうもう1カ所の入口
写真②を見ると、首都高速の料金所と国道357号は分岐して、国道はベイブリッジの下層部へと通じる。この道路には、東からもう1本合流する道路(これも国道357号)があり、その入口(地図B地点)には通行規制の標識はあるが、自動車専用道路の標識はない(写真③)。というように、少し複雑な状況になっている。
本牧から大黒ふ頭までバイクで移動した場合のおよその所要時間
国道357号の管理者である国土交通省関東地方整備局横浜国道事務所に尋ねると、「国道357号は、自動車専用道路という位置づけではありません」という。また、ベイブリッジにつながる国道部分は横浜市港湾局が管理しており、自動車専用道路の標識については、首都高速と同港湾局が協議したうえで、首都高速が設置したものであることがわかった。標識を設置した位置が適切かどうかは、引き続き調査が必要だ。
大黒ふ頭などの港湾区域では、移動にバイクを利用している労働者が多く、125ccのスクーターもよく見かける。横浜市中区や磯子区から大黒ふ頭に通うなら、ベイブリッジを渡れば10分で到着できる。しかし125ccクラスのバイクだと、わざわざ横浜市の中心部を通って東神奈川の先まで大きく迂回しないと大黒ふ頭にアクセスできない。時間にしたら30分以上はかかるだろう。
近住民の通勤の利便性など生活効率の向上のためにも、この125cc規制を見直すことはできないだろうか。
二輪車の通行を規制する理由には、道路環境などに起因した安全上の問題のほか、ローリング族(峠道を周回する競走型暴走族)といった一部の違法運転者を締め出すために、排気量や時間を指定して通行禁止にしている区間もある。
箱根旧街道の二輪車規制の起点
神奈川県箱根町の旧東海道(県道732号)もその一つで、毎年4月1日~11月30日の土曜・日曜・休日の8:00~15:00に限り、排気量550cc未満の自動二輪車を通行禁止にしている。ここでは原付(50cc以下)は規制対象外とされ、通行が認められている。
神奈川県警は、「旧街道のなかでも七曲り付近は、急勾配のためハンドル操作を誤って転倒したり、スピードの出し過ぎにより対向車と衝突するなどの事故が多発したため、無謀運転の多い時期、曜日、時間帯に交通規制を実施しています。排気量に関しては、規制を開始した昭和59(1984)年当時、550cc未満の二輪車が危険な走行をする実態にあったからです。また、迂回路となる箱根新道は自動車専用道路なので、旧街道では原付を通行させています」と、話す。
しかしながら、首都圏でも指折りの観光地である箱根で、行楽シーズンの土曜や休日に通行を禁止されるというのは、ライダーにとってたいへん残念な措置であり、550ccを境に通行の可否を分けるのも、いまの実態にはそぐわないようにみえる。さらに、125ccクラスのバイクは旧街道が通れないだけでなく、迂回路の箱根新道(自動車専用道路)も通行できない点が見過ごされている。生活の足として125ccを利用している地元ライダーは、規制の時期にはたいへん不便な思いをしているはずだ。
ツーリングライダーが走る旧街道
地元の生活者には欠かせない道路
今年6月下旬の土曜日に箱根の旧街道を視察してみると、ツーリング客らしい大型バイクや、通行が禁止されているはずの軽二輪クラスのバイクも、とくに規制を気にした様子もなく通っていく。1時間に15~16台のバイクが通行し、550cc未満らしいものも5~6台含まれていた。見ている限り、ゆったり走っているツーリングライダーと、地元住民と思われる125ccクラスや250ccクラスのスクーターばかりで、こうした交通実態が恒常的なものならば規制は必要ないだろう。
蕎麦処「石だたみ」の店主夫妻
神奈川県警にこの規制の見直しを検討できないか尋ねると、「箱根地区については現在もローリング族がなくならない状況であり、交通取り締りの実施や、道路管理者と連携して、ローリング走行しにくい環境づくりに努めているところです。そのため、現時点では規制の解除は困難です」とのこと。
規制区間の沿道で蕎麦店「石だたみ」を営む店主に聞くと、「いまはバイクの暴走族なんて聞かないですよ。問題にならないでしょう? それよりも火山噴火の風評被害で、箱根は大打撃です。むしろバイクのお客さんにたくさん観光に来てもらって、町を賑わしてもらいたい」と話す。
こうした住民の後押しがもっと広まるよう、ライダーの側でも自制の利いた安全運転、マナーのいい運転を大事にし、規制の見直しにつなげていくことが必要なようだ。
峠の数キロ手前に規制情報を掲出
125ccクラスは便利なコミューター生活者にとっては解除してほしい規制
箱根の旧街道のほかにも、暴走族・ローリング族対策の二輪車規制の多くは、1980年代に始まっていることが多く、それから30年ほどが経過し、規制内容と交通実態が合わなくなっているケースは少なくない。
神奈川県でもう一例を挙げると、相模原市の山間を通る国道20号、通称「大垂水峠」は、土曜・日曜・休日のみ排気量125cc以下の自動二輪車と原付の通行を禁止している。神奈川県警によると、規制の導入は1987年で、当時、125cc以下のバイクによるローリング族が横行し、周辺住民に迷惑をかけていたことが理由となっている。
無謀運転を取り締まることは当然のことながら、時代の推移とともに実態に即した効果的な対策が求められるもので、車両の通行規制のあり方にも同じことが言える。現在の交通実態と規制内容がかけ離れたものになっていないか、とくに古い規制については適切な点検が必要だ。
また、行政の努力に期待するだけでなく、ライダーをはじめとした道路利用者が、標識の不備や規制への疑問を声に出して伝えることも大切。そのために「標識BOX」(道路標識意見箱)といった制度があり、警察や道路管理者はいつでも意見を受け付けている。 日本二普協に集まったライダーの声が行政に届けられ、規制の見直しが前向きに検討されるよう期待したいものだ。