各界のライダーの方々にモーターサイクルの楽しみを語っていただくインタビューシリーズ、第2回は、ホンダ・レーシングの宇川徹さんのお話です。
本年鈴鹿8耐での優勝、GPマシンの開発、さらに今秋、日本グランプリへのスポット参戦など忙しく活躍中の宇川さんに、日本のモーターサイクルスポーツの現在について、またご自身のバイクライフについて語っていただきました。
鈴鹿8耐(2004年7月25日)
── 鈴鹿8耐優勝(7月25日)、おめでとうございます。宇川さんにとって、今シーズンはどんなシーズンでしょうか。
ありがとうございます。実は8耐出場は突然決まって出ることになったんですよ。
これまで8年間にわたってワールドGPで走っていて、基本的にヨーロッパでの生活がベースでしたから、日本の梅雨も9年ぶりに経験しました。ワールドGPは年間13カ国16戦を転戦しますから、だいたい月に2、3回のレース生活が4月から11月まで続きます。その間は常に緊張して、気が張り詰めている感じでした。今シーズンからは基本的にはGP用のマシンのテストがメインの仕事です。正直、どうやって生活していけばいいのか、と思うくらいです(笑)
── テストや開発に関わる中で、新しいチャレンジをしておられるのですね。
だいたい週に2、3日はテストとして乗っています。もちろんレースに出るのとはまた違う緊張感があって、いいものを作っていかなければという意気込みはありますね。やっぱり自分が開発したオートバイに乗ったライダーが世界一になれば、自分もその世界一の中に加わっているという喜びがあります。
逆にホンダのライダーが勝てなければイコール僕の責任ですから、今までとは違う意味で、やっぱり悔しい。現役の頃は自分のことしか考えていませんでしたから、自分が負ければもちろん悔しいけれど、チームの誰かが負けてもそんなことは全く感じなかった。
とくに今年は、バレンティーノ・ロッシ選手(2年連続MotoGPチャンピオン)がホンダからヤマハに移籍しましたから、ホンダとしては是が非でもこれを押さえてチャンピオンを獲らなければいけない。テストも忙しいです。
── 開発の難しさ、面白さはどんなところですか。
そうですね、新しいパーツができたり、エンジンの仕様が変わった時にはまず僕が乗って、確認してからヨーロッパに送ることになるんです。ホンダには6人ライダーがいるのですが、ライダーごとにけっこう好みが違うので、3人は良いと言ってくれても他の3人はダメだったり、1人は良いと言っても他の5人がダメだったりとか、そこがすごく難しい。僕の仕事はマシンをふるいにかけるようなもので、全くダメなものは日本で留めておいて、いけそうなものだけ現地へ送り、あとはライダーの好みに合わせてもらうことになります。
面白さ、楽しさということで言えば、それはやっぱりレースに出ている時が楽しいですよ。でも自分の関わったオートバイが世界一になれるかなれないか、そういう新しい楽しみややりがいを感じ始めています。
── 日本ではモーターサイクルスポーツの認知度が欧米に比べて低いですが、宇川さんは内側からご覧になって、どのようにお考えですか。
難しい問題ですね。向こうでは二輪のレースを二輪で見に行くという文化が定着しているので、オランダのアッセンのレースなんか、二輪車駐車場を見ると凄いですよ。何万台ものバイクがとまっています。
ヨーロッパでのオートバイレースは、日本でいえばプロ野球みたいにステータスが確立していて、MotoGPはF1やサッカーと同じくらい人気があリ、TVでもライブで放送しているくらいです。例えば僕がスペインやイタリアのレストランに行って、たまたまそこにいた人が僕のことを知っていたりすると、もう大騒ぎになっちゃいます。サインを求められたり、料理をただにしてくれたり。日本ではまずそうはならない(笑)。
一方日本を見ると、例えばタレントがTVドラマで乗ったらそのオートバイが売れたとか、そういう世界じゃないですか。もう基本的に、モータースポーツとかオートバイが根づいているという感じがぜんぜんしない。なんとか、時間をかけてでも、モーターサイクルスポーツをこの国に根づかせていきたいですね。
── 妙案はありますか?
僕もオートバイ競技の地方選手権にインストラクターとして参加したりするんですが、基本的に昔からやってきた人たちがそのままスライドして出場してくるだけで、その下の30代以下の層は全くいない状況です。もっと若い人が乗ってくれないとダメでしょう。
若い人が減った一因として、コストがかかるということもあります。入門クラスのレースでも百万円ぐらいかかりますから、なかなか出場できない。しかもワークスチームがなくなって、目指すものがなくなってしまった。僕らの頃はワークスに憧れて、苦労してワークスライダーになったら外車に乗って…というような目標があったから、がんばってこられたのだと思います。
レースに限らず一般のライダーも含めて、いわゆる中高年ライダーから下の中間層が全く抜けているので、今からその人たちに向かってバイクに乗れ乗れといっても効果はないと思います。それよりももっと若い世代、たとえば小学校低学年ぐらいからバイクに親しんでもらって、10年、20年後にどうなっているかという話じゃないでしょうか。
また、バイクの楽しさ、面白さをみんなに知ってもらうために、マスコミの方々にももっと頑張ってもらいたいと思うことがあります。今、アテネでオリンピックが開かれていますが、例えばアーチェリーのようにふだん全く見ない競技でも、オリンピックになるとみんな見るわけでしょう。二輪スポーツももう少し大きく採り上げられれば、「ああ、そんなのがあるんだ」と見てくれる人も出てきます。
とにかく情報が入ってこなければ何も進まないので、映像なり写真なりが目につくような環境になれば良いと思う。新聞でも、海外ならレースの翌日は一面に写真入りで記事が出ますが、国内では小さく文字だけの扱いがせいぜいです。TVも、ゴールデンタイムでやれとは言いませんが、夜中の2時3時に放映しても誰も見ないでしょう。せめてもうちょっと早い時間にやってほしいと思いますね。
── 9月19日には、もてぎ日本GPが開催されますね。これからレース観戦を楽しもうとするビギナーに、宇川さんからアドバイスをいただけますか。
僕もやっぱり自分の好きなライダーや好きなメーカーを決めて応援するのが一番だと思います。野球でも、ただ漠然と見ていても面白くない。好きなチーム、選手がいるから応援したくなるわけで、やはり目当てのライダーを見つけて応援してもらうのが一番熱が入ると思います。
今年の見どころとしては、現在1位のバレンティーノ・ロッシ選手がいるヤマハと、2位、3位のホンダが今、熾烈なチャンピオン争いをしているんですけれど、まずはこの3台がどう絡むか。それから、去年もてぎで不本意ながら失格してしまった玉田誠選手が、本来は得意なサーキットであるもてぎでどんな走りを見せるか、といったあたりでしょうか。
ツーリングで
── さて、プライベートでもよくバイクに乗っていらっしゃると聞きますが、宇川さんにとってバイクの一番の魅力は何でしょうか。
僕にとってオートバイというのは、なきゃならないものなんです。バイクがなければ「宇川徹」は成り立たない。オートバイに乗れば、全日本チャンピオンになったり、ヨーロッパを回ったりできるんですけど、他には何も出来ないので(笑)。
バイクの魅力はといえば、クルマと違って季節を感じられることかな。山の下から上へ上がっていくとだんだん涼しくなったり、花の匂い、海の匂いが感じられるじゃないですか。寒いときは寒いし、暑いときは暑いんですけど、それも僕はいいんじゃないかと思います。
だいたい月1回は必ず、友達と1泊2日のツーリングを企画して行ってます。1日に600kmから700kmも走ることもあります。僕にとってツーリングの最大の楽しみは、温泉なんです。特に冬場、寒くて凍えた体で温泉につかって、上がってからビールを飲むのが最高ですね。昨日も奥多摩を抜けて、山梨のほうに行ってきたんですけど、涼しくて良かったですよ。ちょっと雨に降られましたが。
── ポケバイ選手権「宇川徹杯」を開催するなど、子どもたちに接する機会も大切にしておられますね。
僕自身は小学校4年の頃、10才からポケバイを始めましてね。たまたま家の近くにあったフィールドアスレチック施設の中にポケバイのコースがあったんですが、友達とアスレチックをしに行った時に乗ってみたら、右手を回すだけで前に進む! こんな乗り物があるんだと夢中になりました。
たまたまポケバイだったのかも知れない。そこにゴーカートがあったら、ゴーカートにはまっていたのかも知れません。とにかく乗り物がすごく好きだったので。その後はまあ、皆がサッカーとか野球とか、部活で精を出すのと一緒に、僕はバイクに精を出していたという感じです。幸いにして、他の事には興味がまったくなかったし(笑)。
僕が始めた80年代はポケバイがブームで、あちこちにコースがあったんですが、今はなくなっていますね。サーキット自体も減って、走る場所がなくなってきている。それに高校の「三ない運動」なんかもあります。でも、「とにかく乗るな」ではなくて、乗り方をきちんと教えることのほうが本当は大事だと思っているんです。自分の経験からしても、オートバイの楽しさは子どもの頃から知っておいてほしい。その意味で、今週開かれるポケバイ選手権「宇川徹杯」(8月29日開催)もバイクを安全に楽しんでもらうチャンスにしていきたいんです。最近の子どもたちは大人にすぐタメ口をきいたりするんで、基本的な礼儀や常識も教えなくてはなりませんけどね(笑)。
── オートバイをより多くの人が楽しみ、もっと生活に浸透していくためには何が必要でしょうか。
やはり、「バイク=危ない」という図式があまりにも浸透していると思うんです。危ないというイメージしか、バイクってないみたいで、あとは暴走族とか、これもネガティブなイメージですよね。
確かに、バイクは走っているか支えるかしないと転んでしまう特殊な乗り物ですが、問題はそれをどうやって安全に乗るかだと思います。「すり抜け」や「割り込み」をする人が多いですが、そのときに四輪のドライバーのことも考えてほしい。すりぬけはバイクの特権みたいな面もありますが、せめて速度を出しすぎず、マナーを守って。
僕は四輪にも二輪にも乗るので、どちらの気持ちも分かるんです。だから車を運転していて二輪が横から来ると、よけてあげたりする。でも車の免許しかない人にはバイクの動きは全く読めないので、バイクが来ただけでも危ないと感じることがあるんです。お互いがうまく共存して、気持ちが分かりあえたらいいと思いますね。
(2004年8月26日(木) 於:東京品川・NMCA日本二輪車協会)
ホンダ・レーシング ライダー
1973年 | 千葉県に生まれる |
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1989年 | "テクニカルスポーツ九州(現チーム高武)に参加、ロードレースデビュー 九州選手権SP250チャンピオン" |
1990年 | 17歳で、鈴鹿4耐にて柳川明選手とペアで優勝 |
1991年 | 国内A級全日本250ccチャンピオン、鈴鹿6耐にて優勝 |
1992年 | 国際A級昇格、ホンダワークス入り |
1993年 | 全日本250ccチャンピオン(3勝)、全日本初優勝 |
1994年 | 全日本250ccチャンピオン(6勝)、WGP日本GPスポット参戦、鈴鹿8耐にて転倒し大怪我 |
1996年 | WGP250ccフル参戦開始、ランキング5位 |
1997年 | WGP250ccランキング5位、鈴鹿8耐に伊藤明選手とペアで優勝 |
1998年 | WGP250ccランキング4位/鈴鹿8耐にて伊藤選手とペアで優勝 |
1999年 | WGP250ccランキング2位、フランスGPとバレンシアGPで優勝 |
2000年 | WGP250ccランキング4位、フランスGPとオランダGPで優勝、鈴鹿8耐にて加藤大治郎選手とペアで優勝 |
2002年 | "MotoGPクラスランキング3位、南アフリカGPで初優勝 |
2003年 | MotoGPクラスランキング8位。 |
2004年 | 鈴鹿8耐にて井筒仁康選手とペアで優勝 |
1 現在の愛車は? | ホンダ CBR600(オレンジ)/ホンダ フォルツァ(ブルー)/ホンダ モンテッサ(赤) |
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2 最初に乗ったバイクは? | ポケバイでは「スイング」、バイクではカブ70cc |
3 今後乗ってみたいバイクは? | 高速道路の二人乗りが解禁になるので、ホンダVFR800、ホンダST1100。 |
4 愛用の小物は? | ヘルメットはSHOEI、ブーツはAlpinestars |
5 バイクに乗って行きたいところは? | まだ行ったことがないので、北海道 |
6 あなたにとってバイクとは? | なければならないもの、生活の全て |
7 安全のための心得はありますか? | 「急がない、あせらない」「ふだんと違う走りをしない」「煽られても我慢」レースと違って速く走らなくても叱られないから、いつもゆっくりマイペースで走っています |
8 バイクに関する困り事は? | 「通行禁止」「二人乗り禁止」「駐車場」 |
9 憧れのライダーは? | ポケバイを始めた頃はフレディー・スペンサー(1983年 世界チャンピオン)ずっと後に本人に会ったら太っていた。今は、自分自身が憧れのライダーになりたい |
10 バイクの神様に会ったら何と言う? | 「世界チャンピオンにならせてください」 |
タイラレーシング(株)代表/元GPライダー
オートバイは異空間。そして地球上で一番自由な乗り物です。
ホンダ・レーシング ライダー
モーターサイクルスポーツを、この国にしっかり根づかせたい。
カワサキ モトGPファクトリーライダー
たくさんの人に支えられて、プレッシャーの中で走る快感
MFJ全日本レディスモトクロス選手権
チャンピオン
出来ないことが、出来るようになる。その時がいちばん嬉しい
能楽囃子大倉流大鼓
重要無形文化財総合認定保持者
オートバイは失われた日本の精神文化を取り戻すツール
噺家
バイクで走れば噺の舞台が見えてくる
作家
バイクがなかったら僕が僕じゃなくなっているかもしれない
女流棋士
将棋の駒ならバイクは香車。バックギヤはありません
アライヘルメット社長
バイクに乗れば自分の頭のCPUスピードが分かりますよ
モータースポーツカメラマン
レンズの向こうに見えるライダーの想いを伝えたい
バイクインストラクター
安全はお金を払って身につけるもの
雅楽演奏家
思い描いたバイクに仕上げる楽しみこそ、東儀流
タレント
「憧れ」から「等身大」に視点を変えて出会った、運命のバイク
俳優
バイクは五感を研ぎ澄ませるためのツール
俳優
自分をどこにでも連れて行く、バイクは「筋斗雲(きんとうん)」
株式会社ハドソン 宣伝部
ゲームは1日1時間、バイクは1日8時間!