任天堂の「ファミリーコンピュータ」が登場し、熱狂的な家庭用ゲーム機ブームが訪れた1980年代中旬。テレビにイベントに大忙しの名物広報マンがハドソンにいました。その名は「高橋名人」。
1秒間にボタンを16回も連打する「16連射」というテクニックで、当時の子どもたちに圧倒的な人気を誇った高橋名人の趣味は「バイク」。それも、1日に1,000キロを走る筋金入りのライダーだったのです。
2006年11月、会社から正式に「名人」という役職を与えられ、名実ともに「高橋名人」となった高橋利幸さんに、充実のバイクライフについてお聞きしました。
── バイクと出会ったのはいつ頃ですか?
初めて乗ったのは高校2年のときで、バイクはTL50(ホンダ/バイアルスTL50)です。僕は札幌の生まれなので、周りには自然がたくさんあって、手に入れたTL50で川に入ったり、山道を走ったりといろいろやりましたね。ただ誰に教えてもらうわけでもない自己流の運転なので、今思うと相当な無茶をしていたと思います。
大学に入って車に乗ってからは、1年半くらいバイクから遠ざかっていたのですが、ある日、渋滞の横を颯爽と通り過ぎていくバイクがとてもかっこよく見えて、すぐに中型免許を取りにいきました。バイクは当時発売されたばかりのホークII(ホンダ/ホークII CB400T)を購入しましたが、1年後には弟に売って、ウイングカスタム(ホンダ/ウイングカスタム GL400)に乗り換えました。
── 北海道のどのあたりを走っていたんですか?
当時一番走っていたのは支笏湖周辺です。真駒内から支笏湖へ向かう道がワインディングロードになっていて、それがもう楽しくて。多いときで週に4日は走っていたと思います。それ以外にも根室や釧路も走りましたし、少し足を延ばして旭川や稚内にも行きましたよ。
高橋名人の愛車、ゴールドウイングの勇姿
── 東京に出てこられてからもバイクには乗っていたんですか?
スーパーの青果部を退職してからハドソンに入社し、東京勤務となりました。上京するとき社長が「東京は車が混むからバイクで回れよ。お前が乗っているバイクを買い上げてやるから」と言ってくれたので、バイクも一緒に東京へ送ってもらいました。バイクの名義は会社になりましたが、実際に乗るのは私だけで、ガソリン代は会社持ちだし、楽しかったですね。ウイングカスタムの後ろにソフトのカタログを積んで、関東近郊の店舗はほとんど回りましたよ。
1985年にハドソンの全国キャラバンが始まって、それ以後「高橋名人」としての活動が増えていくのですが、そのころに会社からバイク禁止令が出てしまいました。「事故が起きたとき、お前の代わりを誰がやるんだ」と言われたら、何も言えなくて。社用車だったウイングカスタムは、バイクを盗まれた札幌のスタッフに譲られてしまい、その後15年近く公私ともにバイクには乗りませんでした。
── 復帰されたのはいつごろだったんですか?
1999年のある週末、峠や高速道路を楽しく走っている夢を見たんです。「これはもうバイクに乗ってもいいということだ!」と思って、目覚めたその足で新宿のバイクショップに行き、フォーサイト(ホンダ/フォーサイト)を買ってしまいました(笑)。それが40歳ちょっと前くらいです。ひさしぶりに乗ったバイクは本当に楽しくて、週末は土日それぞれ日帰りで毎週出かけていました。3カ月で7,500km走りましたからね(笑)。伊豆半島一周なんて当たり前で、もう定番コースになっちゃいましたから。
── 大型免許を取られたのはいつごろですか?
そのバイクショップ主催のツーリングに参加したときに、女性がリッターバイクに乗っているのを見たんですが、それがすごく決まっていたんですよ。しかも友だちに聞いたら、今大型免許が教習所で取れるというじゃないですか。そこで早速教習所に通って免許を取り、交付してもらったその足でバイクショップに行って、目の前にあったX4(ホンダ/X4)を指差して「これ!」と(笑)。結局フォーサイトは3カ月しか乗りませんでしたね。
讃岐うどんの名店「がもう」(香川県)でお食事中の高橋名人。
ツーリングの目的は食べること、と言い切ります
── 思い立ったら即行動ですね。
はい(笑)。やっぱり乗りたくなったらすぐ乗りたいんですよね。
X4を買ってから半年くらいで大阪へ転勤になりましたが、それでも東京のツーリングにもよく参加していました。前日に東京まで走って、翌日ツーリングに参加したら、その日の夕方にはもう大阪へ、なんてことをやっていましたね(笑)。X4も最初の1年間、週末に乗っただけで18,000kmくらい走りました。当時は1日1,000kmとか普通でしたね。
そんなX4で不満だったのがタンクの大きさでした。容量が15Lしかないので大阪から東京まで片道3回くらい給油が必要で、これがとにかく面倒くさかった。そんなときバイク雑誌でタンクが29Lもあるパンヨーロピアン(ホンダ/STX1300パンヨーロピアン)というバイクが目に止まって、「これだ!」とすかさず買い換えました。タンクが29Lあると高速道路で500~600kmくらい走れるんですよ。だから目的地までノンストップで行って、着いたら1 回給油すれば帰ってこれる。走っているときに給油のことを考えるのが嫌いなので、これは最高でしたね。
パンヨーロピアンで一番遠くに行ったのは盛岡です。このときは日帰りで冷麺を食べに行きました。朝4時に出発して、盛岡で冷麺を食べたらすぐ引き返すという行程で、諸経費含めるとたいへん高い冷麺になりましたが、楽しかったです(笑)。
長距離を走るようになると音楽が聴きたくなるんです。そこでヘルメットに取り付けるヘッドセットや、バイク本体に取り付けるスピーカーを試したのですが、どれもしっくりこなかった。「だったら最初から付いてるバイクにすればいいじゃないか!」と、ここでゴールドウイング(ホンダ/ゴールドウイング)にたどり着くわけです(笑)。買う前はゴールドウイングって何かこう“スペシャルな人”のバイクだと思っていたんですけど、乗ってみたら全然違っていました。高速は楽チンだし、峠も楽しめるし、とっても乗りやすいバイクだったんですね。いろいろなバイクに乗ってきましたが、やっと「車重以外は、何の不満もないバイクにたどり着いた」という感じがしました。
── 普段はどんな音楽を聴いているんですか?
ゴールドウイングは音楽が快適に聴けるのでいろいろと試しましたが、最終的にビートルズがしっくりくるように思います。僕は井上陽水さんが好きなのですが、彼の曲はちょっとツーリングには合いませんでしたね(笑)。iPodにも音楽をたくさん入れていて、トランスミッターを使って聞くこともあるんですが、いきなりアイドルの曲とかピンクレディーの曲が流れてきて、慌ててボリューム下げることも多いです(笑)。
富士山をバックに愛車を撮影。
このあたりは高橋名人にとっては
「庭」のようなもの?
── ツーリングするときに気をつけていることは何かありますか?
ソロツーリングは基本的には無茶しないことと、自分を過信しないこと。僕は自分がそんなにうまいと思っていないので、急カーブだったらスピードを落とすとか、常に確実な方法を取ります。峠道も対向車が来ているかもと思っていれば、そんなにスピードは出せないし、センターラインに寄ることもできませんよね。これなら基本的に事故は起きないと思っています。
マスツーリングはいつも私が先頭なんですが、だいたい10台くらいのツーリングなので、先頭の私から一番後ろが見える間隔で走るよう意識しています。それと最後尾がついて来られないような信号は無理して抜けないなど、後続のことを考えつつ早めの判断を心がけています。
── 夏から秋にかけておすすめの場所はありますか?
海なら西伊豆でしょうか。沼津で降りて、石廊崎まで海岸線を走るのが好きですね。小鯵寿司もおいしいですよ。山なら富士宮の焼きそばを食べてから、白糸の滝を巡る富士周辺のコースもお勧めです。マスツーリングならちょうどいい距離じゃないでしょうか。
瀬戸大橋の記念碑と。
時間さえ許せば、日本全国どこまでも!
── 最近のバイク業界に対して何かご意見はありますか?
ルールを先に決めるのではなく、まず環境を作ってからルールを決めてほしいですね。駐車場の問題もそう。環境が用意されていれば、違法駐車はなくなるはずですよ。今は停めるところが少ないので、買い物に行くときバイクに乗る機会が減ってしまいました。
停めるところがないときは、車と同じ金額を払ってもいいから、車の駐車スペースに置かせてほしいとよく思います。お金はかかりますが、違反切符を切られるよりずっといいですからね。ゴールドウイングは大きいバイクなので、「車の駐車場に停めさせてください」と頼んだことが何回かありますが、基本的に断られてしまいます。これは駐車場側にバイクに対する知識が少ないからだと思います。ゴールドウイングはスタンドを立てたらよっぽど大きな地震でない限り転倒しないんですよ。でも駐車場側は転倒の心配をする。まだまだ駐車場側にはそういった意味でもバイクの受け入れ態勢ができていないと思うので、業界側からドンドン知識を広めてもらって、環境を整えていってほしいです。
── バイクに対する工夫やこだわりは何かありますか?
いろいろなところを触るのが好きで電装や音響などをよくいじりますが、ブレーキとエンジンだけはバイクショップの人に任せるようにしています。一歩間違えば自分の命のみならず、事故で他人に迷惑をかけることもあり得るので、ブレーキとエンジンをプロの手に任せるというのはこだわりですね。
走行中の高橋名人を後続のバイクが撮影!
気持ちの良い道が続いています
── 高橋名人にとってバイクの魅力とは?
バイクは走るまでにしなきゃいけないことが結構ありますよね。カバーを外して、キーロックを外し、エンジンをかけたらアイドリングして、ヘルメットをかぶって、グローブ着けてという一連の儀式が、「これから走るぞ!」という気にさせてくれるんですよ。帰ってきたときも同じで、グローブを外し、ヘルメットを取るという一連の動作のなかで、「今日はよく走ったなー」という気持ちになる。これはさっと乗り降りできてしまう車にはない魅力だと思います。
それと自然を体で感じることができるのもバイクの魅力ですよね。去年四国までうどんを食べに行ったときに、京都の手前でゲリラ豪雨にあったんです。車はみんな止まってたけど、僕はそのままずーっと進んで行きました。暑ければ暑いし、寒ければ寒いんだけど、それをどうやって乗り越えるか、克服するかというのもバイクならではの醍醐味だと思います。
── ちなみにバイクとゲームでは、どちらがお好きですか?
バイクとテレビゲームならやっぱりバイクを取りますよ。ゲームは1日1時間で十分ですが、バイクは1日8時間乗ってもまだまだ走れますから(笑)。
(2009年8月4日 於:東京・ハドソン本社)
本名 : 高橋利幸(たかはし・としゆき)
生年月日 : 1959年5月23日(50歳)
出身地 : 北海道札幌市
血液型 : O型
身長 : 163cm
趣味 : ツーリング、映画鑑賞
特技 : 16連射、辛い物好き
資格 : 第一種中型免許、大型自動二輪免許
1982年、ハドソンに入社。
1985年、「第1回全国ファミコンキャラバン大会」のイベントで名人となる。
以後、TV・ラジオ・映画など精力的に出演し、子どもたちの人気者に。
高橋名人をキャラクターに使用したゲーム『高橋名人の冒険島』シリーズや、関連書籍、CDなども多数発売した。
2006年、11月1日に役職が「名人」となり、名実ともに高橋名人となった。
現在もハドソンの宣伝部名人として、さまざまなメディアに登場している。
1 現在の愛車は? | ホンダ ゴールドウイング |
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2 最初に乗ったバイクは? | ホンダ バイアルスTL50 |
3 今後乗ってみたいバイクは? | ボスホス社のバイクですね。車重800kgのバイクがどう走るのか、興味があります。 |
4 愛用の小物は? | ケテル社のヘッドセットです。タンデムで後ろの人と会話したりとか、何かと便利です。 |
5 バイクに乗って行きたいところは? | 海岸線沿いを走って本州を一周。すでに北海道と四国は走りました。 |
6 あなたにとってバイクとは? | 足 |
7 安全のための心得はありますか? | 8割で乗る。自分を過信しない。 |
8 バイクに関する困り事は? | 駐車場が足りません。 |
9 憧れのライダーは? | 世界中を走っていらっしゃる賀曽利隆(かそりたかし)さんです。 |
10 バイクの神様に会ったら何と言う? | 素晴らしい乗り物をありがとうございます。 |
タイラレーシング(株)代表/元GPライダー
オートバイは異空間。そして地球上で一番自由な乗り物です。
ホンダ・レーシング ライダー
モーターサイクルスポーツを、この国にしっかり根づかせたい。
カワサキ モトGPファクトリーライダー
たくさんの人に支えられて、プレッシャーの中で走る快感
MFJ全日本レディスモトクロス選手権
チャンピオン
出来ないことが、出来るようになる。その時がいちばん嬉しい
能楽囃子大倉流大鼓
重要無形文化財総合認定保持者
オートバイは失われた日本の精神文化を取り戻すツール
噺家
バイクで走れば噺の舞台が見えてくる
作家
バイクがなかったら僕が僕じゃなくなっているかもしれない
女流棋士
将棋の駒ならバイクは香車。バックギヤはありません
アライヘルメット社長
バイクに乗れば自分の頭のCPUスピードが分かりますよ
モータースポーツカメラマン
レンズの向こうに見えるライダーの想いを伝えたい
バイクインストラクター
安全はお金を払って身につけるもの
雅楽演奏家
思い描いたバイクに仕上げる楽しみこそ、東儀流
タレント
「憧れ」から「等身大」に視点を変えて出会った、運命のバイク
俳優
バイクは五感を研ぎ澄ませるためのツール
俳優
自分をどこにでも連れて行く、バイクは「筋斗雲(きんとうん)」
株式会社ハドソン 宣伝部
ゲームは1日1時間、バイクは1日8時間!