時代の波に乗るレンタルバイク 需要の源泉とトレンドを探る

本ページは、一般社団法人日本自動車工業会が発行している月刊誌「Motorcycle Information」2019年10-11月号の記事を掲載しております。

いまバイクのレンタルが面白い。「モトオーク」は二輪車販売店を軸にレンタル事業を展開、各店独自のサービスが好評だ。「レンタル819」では、月々定額でレンタルできるサブスクリプションなど、さまざまなサービスを提供。「ベストBike」は、店舗不要の“セルフレンタル”を考案。個人が所有するバイクをレンタル車両として貸し出すシェアリングにも取り組んでいる。

高級車、別荘、ボート、ブランド品など、世の中では“借りて楽しむ生活”が一般的なものとして受け入れられつつある。バイクのレンタルもこの10年ですっかり社会に定着し、“借りて乗るライダー”の数は確実に増えている。最近ではユニークな店や画期的なサービスが続々と登場し、業界は活性化の真っ最中だ。注目されている3つのブランドを訪ね、レンタルバイクの需要の源泉と、ビジネスのトレンドを探った。

成長するレンタルバイクビジネス

バイクのレンタルサービスは、2000年代の半ばから本格的に普及し始め、二輪車販売店はもちろん、専門ショップ、バイク用品店、空港、駅、高速道路のサービスエリア、ガソリンスタンド、教習所など、いろいろな場所で営業されるようになった。

国土交通省の統計資料「レンタカー事業者数および車両数」によると、全国のレンタルバイク事業者数は2018年3月末現在で220事業者、車両数は2,789台*注となっている。年によって浮き沈みはあるものの、2013年実績と比較すると、事業者数は約1.3倍、車両数は約1.5倍に増えている。業界関係者は、「レンタルバイクの市場規模は全体で10億円を超えようとしている。成長ビジネスとしての可能性はこれからが本番で、事業を拡大するためのアイデアは豊富にある」と話す。

●バイクのレンタル事業者・車両数の推移

●バイクのレンタル事業者・車両数の推移

*注:車両数に原付二種以下(排気量125㏄以下)は含まれていない。

国の二輪車販売店をネットワーク
――モトオークレンタルバイク

自動車・二輪車などのオークションを運営する株式会社オークネット(東京都港区)は、東証一部上場の大企業。二輪車オークションの会員(二輪車販売店)は約2,000社に上り、週当たり約1,200台の出品を取り扱っている。同社が「モトオークレンタルバイク」(以下モトオーク)のブランドで事業を開始したのは2012年。二輪車オークションのネットワークを基盤に、現在、全国121の二輪車販売店が事業に参加。年間の貸し出し台数(稼働車両数)は延べ5,700台を超えている。

●モトオークの全国店舗数・稼働車両数

●モトオークの全国店舗数・稼働車両数

モトオークの場合、ユーザーはWebサイトで自分の条件に合った車両を選んで予約し、該当する二輪車販売店でバイクを借り出すことができる。レンタル料金は販売店の売り上げになり、販売店はシステムの使用料など月々定額の会費をオークネットへ支払う仕組みだ。

業務を担当するMCリテール事業部の人見紀夫さんは、「弊社のレンタルバイク事業は、オークション会員である二輪車販売店を活性化させるのが目的です。お店にバイクを借りにくるお客様が増えれば、いずれ車両購入にもつながります。レンタルに使ったバイクを中古車として販売したり、オークションへ出品することもできます。そうやって流通が動き、ビジネスの循環が成り立つわけです」と説明する。

また、二輪車販売店によるネットワークであることは、モトオークの強みでもある。MC事業推進部の髙田 修さんは、「レンタルバイクのユーザーは、地域に密着している二輪車販売店で車両を借りられることに安心感があるようです。車両の品質や状態についても、販売店が扱っているという信頼感が大きいのです」と話す。

オークネットのオペレーションルーム

オークネットのオペレーションルーム

モトオークの人見さん(右)と髙田さん

モトオークの人見さん(右)と髙田さん

店ごとの独自キャンペーンなど“お得なサービス”も

モトオークのレンタルシステムを活用している二輪車販売店のなかには、独自のブランドとアイデアを前面に出してサービスを行っているケースもある。オリジナリティのある事業を展開し、そのショップならではの特色を活かしている。

たとえば今年3月にオープンした「K ユーズド&レンタル東京」(東京都大田区)は、カワサキモータースジャパン株式会社の直営店だ。カワサキが市販している全機種・全カラー(現在40台)のなかから目当ての車両をレンタルできるのが特色。今年の“鈴鹿8耐”でカワサキが優勝した際には、一部のレンタル料を無料にするなど、専門ブランドならではのお得なサービスも行っている。

「バイカーズステーション金沢」(石川県金沢市)は、北陸新幹線の開通でアクセスが便利になり、地域の観光振興の観点から、レール&レンタルバイクによる旅の楽しさをアピールしている。とくに首都圏の女性ライダーをターゲットにして、「レンタルバイクで行く女子能登旅」と銘打って、インスタ映えするスポットを押さえたツーリングルートを提案。女性スタッフがバイクで同行して、観光ポイントやグルメを案内するなど、レンタルバイクでの旅を2倍、3倍と楽しめる企画が人気を呼んでいる。

前出の人見さんは、「レンタルバイク事業をうまく活用することで、お店の売り上げだけではないさまざまなメリット、活性化につながります。2012年当初は消極的だった販売店も、いまでは参入に関心を持つ店が増えています。今後は、サブスクリプション(契約期間を設けた定額プラン)による商品なども開発して、レンタルバイクのネットワークをいっそう拡大していきたいと考えています」と話している。

K ユーズド&レンタル東京の店内

K ユーズド&レンタル東京の店内

バイカーズステーション金沢

バイカーズステーション金沢

ピカピカのスポーツバイクを楽しめる
――レンタル819

株式会社キズキレンタルサービス(埼玉県川口市)は、「レンタル819」のブランド名で全国展開している。二輪車販売店を経営してきた松崎一成さんが2006年に事業を立ち上げたもので、“借りて楽しむバイク”の定着に大きく貢献してきたブランドだ。

「当時、バイクはどんどん高品質で高額なものになって、手が届かない人たちが出てきました。ならば、乗ってみたい憧れのスポーツバイクを、レンタルで楽しめるようにしようというのが最初の発想でした。いつでもピカピカの新しいバイクを貸し出すことで、ワクワク感をもって楽しんでもらえる。そういうサービスにこだわってやってきました」と、松崎さんは話す。  創業時に数店舗だったレンタル819は、いまや全国で直営店が7店舗、フランチャイズ店が139店舗あり、年間約7万件の利用実績がある。こうしたレンタルバイク需要の源泉はどこにあるのか――。

松崎社長の長男で、レンタル819の営業部長を務める松崎城さんは、「いまの時代は、所有することにストレスを感じる人が増えているんです。とくに私と同世代の30代は、月に何回も乗る機会がないのに、車検、タイヤ交換、駐車場の更新、保険、税金と、やることの多さにうんざり。レンタルなら自分で何もしなくても、ちゃんと整備してあって洗車されたバイクでツーリングが楽しめます。借りて乗るほうが気軽だし便利だという考えは、徐々に広まっていると感じています」と話す。

また、レンタルバイクの需要にはいろいろな側面があって、40代以上の世代になると、むしろ“所有したい人たち”がバイクを借りにくるという。「つまり、バイクを購入する前に、実際に乗って試したいという人たちです。弊社はニューモデルを多くそろえていることもあって、試乗目的のレンタル需要はかなり大きい。あとは、スポーツバイクを1台所有したうえで、オフロード、クルーザーなどほかのジャンルにも乗りたいという人、TPOに合わせてバイクを使い分けたいという人など、高収入の人たちがレンタルバイクを活用するケースが増えています」という。

レンタル819(新千歳空港店)

レンタル819(新千歳空港店)

松崎城さん

松崎城さん

さまざまな需要に応じたサービスを展開

レンタル819では、ユーザーのニーズを捉えてさまざまなプランを企画し、積極的に商品化している。最近、とくに人気があるのが、「マイガレ倶楽部」(マイガレージクラブ)という会員制のサブスクリプション。年間契約を結んで月額固定でのレンタル料金を支払うことで、設定された車両のなかから好きなバイクを年間24回まで(月3回、1回24時間が限度)レンタルできるというもの。グレードによって異なるが、たとえば排気量1,100ccのスポーツモデルを年に24回借りた場合、通常だと44万6,400円かかるところ、マイガレ倶楽部なら11万7,600円で利用できる(2019年9月1日現在)。破格のコストパフォーマンスが注目され、現在、約2,000人が会員となっている。

また今年6月から始めた新サービス「Kurabe-gai」(くらべ買い)は、バイクの購入を検討している人を対象に、人気のバイク3台をパッケージにして、1カ月に1台ずつ、3カ月にわたって利用できるプラン。じっくり乗り比べて、納得のバイク購入に役立ててもらおうという商品だ。

異業種とのコラボレーションにも積極的

さらにレンタル819の事業がユニークなのは、自動車教習所やガソリンスタンドなど、異業種と連携した店舗づくりにも力を入れていること。藤沢高等自動車学校(神奈川県藤沢市)も所内でレンタル819を営業している。教習部リーダーの後藤輝美さんは、「バイクの購入資金が貯まるまで、レンタルで乗ってみたいという教習生がたくさんいます。毎月20台前後の貸し出しがあります」という。同教習所では、バイクツーリングを年に数回実施しており、卒業生を中心に毎回20人近く集まるが、いつも4~5台はレンタルバイクでの参加だ。「二輪には路上教習がないので、“レンタルバイクを使った公道レッスン”として体験してもらっています。女性の卒業生にはとても好評です」とのこと。地元ではレンタルバイクのある“オンリーワン”な教習所として注目され、「集客効果は確実にある」と後藤さんは話している。

このようにレンタル819では、“借りて乗りたい”という需要がどこに潜在しているか掘り起し、そのニーズに応じた出店企画を積極的に展開している。

教習所内のレンタル819(後藤さん)

教習所内のレンタル819(後藤さん)

レンタルバイクに革命をもたらす
――ベストBike

駅近くの駐車場に置いてあるバイクを24時間いつでも好きな時間に借り出せる。ショップが存在せず、対人での手続きがないから、深夜の出発、早朝からのツーリングもまったく問題なし。そんな画期的なサービスが「ベストBike」の“セルフレンタル”だ。

どんな仕組みでそれが可能なのか――。バイクをレンタルするのに必要な情報のやり取りと手続きは、すべてベストBikeのWebサイトで行う。まずユーザーは、同サイトに免許証の画像を送信して会員登録を済ませる。利用日時と、借りたいバイク、借り受ける場所(指定バイク駐車場)を予約。料金はカードまたは銀行振り込みで決済される。駐車場には利用開始時刻までにバイクが搬入されており、ユーザーはメールで知らされた暗証番号をもとにキーボックスから鍵を入手。これでバイクが借り出せる。

●バイクを借りる手順

●バイクを借りる手順 その1

●バイクを借りる手順 その2

●バイクを借りる手順 その3

返却も簡単で、燃料を満タンにして、借り出した駐車場にバイクを駐車。鍵をキーボックスに封入し、駐車したバイクの写真を専用Webサイトへ送信する。これで終了だ。

このサービスを運営している株式会社ベストBike(神奈川県横浜市)は、2016年に創立し、今年で4年目になる新しい会社。現在、レンタル車両は本部に30台、フランチャイズなどの所有を含め合計150台ほど稼働している。貸し出し拠点となるバイク駐車場は全国で130カ所ほどあり、駅や空港に近いのでアクセスに便利だ。

同社社長の川角宗一郎さんは、「レンタルバイクをもっと身近で便利なものにしたいという思いがあって、考えに考え抜いたシステムです。誰にも会わずにスマホ1つで完結するので“セルフレンタル”と呼んでいます」と話す。10年ほど前、二輪車販売店でレンタルサービスを担当した川角さんは、店が駅から遠いなど不便に感じた点を潰していくうち、このシステムにたどり着いた。

●バイクを返す手順

●バイクを返す手順 その1

●バイクを返す手順 その2

●バイクを返す手順 その3

シェアリングに発想を得たレンタル車両の供給

現在、ベストBikeは、本部の実績だけで年間延べ1,000台の稼働台数がある。これから事業を拡大するために必要なのは、セルフレンタルの拠点となる駐車場の確保と、レンタル車両の供給だ。

川角さんは、「拠点は、年内に全国で400カ所を目標にして、大手駐車場事業者との連携を進めているところです。レンタル車両の供給については、いま取り組んでいるアイデア、いわゆるシェアリングの発想に近いのですが、一般個人が所有するバイクを、レンタル車両として貸し出してもらうのです」という。

つまり、バイクを持っている個人が、レンタル車両のオーナーとしてベストBikeに登録し、ユーザーからの予約が入ったら、自分で自分のバイクを指定の駐車場に設置する。あとは返却通知を待って、車両の回収に向かうという仕組みだ。現在の規定では、レンタル料金の60%がオーナーの収入になる。1,000㏄クラスのスポーツバイクを24時間貸し出すと、1回で約1万2,000円が支払われる。駐車料金はオーナーが負担することになっている。

「愛車を他人に貸すのは普通なら抵抗があります。ところが、乗る機会が少なくてバイクを手放そうか迷っている人は、他人に乗ってもらうことで愛車が利益を生むなら置いておきたいと考えます。利用者からも家族からも喜んでもらえるからです。始めて間もない取り組みですが、オーナーの数は思った以上に増えています」と川角さん。先ごろベストBikeは、米国Google本社から「将来有望な企業」との認定を受けたそう。本格的な軌道に乗れば、レンタルバイクに革命をもたらすビジネスモデルといえそうだ。

駐車場から借り出すセルフレンタル

駐車場から借り出すセルフレンタル

ベストBike社長の川角さん

ベストBike社長の川角さん

駐車場から借り出すセルフレンタル

駐車場から借り出すセルフレンタル

ベストBike社長の川角さん

ベストBike社長の川角さん

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