本ページは、一般社団法人日本自動車工業会が発行している月刊誌「Motorcycle Information」2019年1-2月号の記事を掲載しております。
二輪車駐車場不足が続いているが、保管場所としての“車庫事情”には改善の兆しがある。不動産・住宅情報サイトの発達で、バイク置き場付きの物件が簡単に探し出せる。また、レンタル収納スペースビジネスの成長に伴ってコンテナ型のバイク車庫が急増。土地の有効活用として注目されている。バイクの月極駐車場を運営する会社は、ここ数年でどんどん物件数を増やしている。
二輪車の駐車場不足には、大きくわけて二つの問題点がある。一つは街なかに一時駐車できる場所が少ないこと、もう一つはバイク駐車場(保管場所=車庫)のないマンションやアパートが多いこと。とくに後者の場合、保管場所が確保できないためにバイクを手放したり、購入をあきらめる人もいて*注1、市場へのマイナス影響も危惧されている。
ところがここ数年で、二輪車向けの月極駐車場やレンタル車庫が急速に拡大して、バイクの車庫事情に改善の兆しが見えてきた。これからバイクを所有したい人にとっては朗報だが、いったい何が起きているのか――。
※注1:一般社団法人日本自動車工業会が2017年に実施した調査によると、バイクを手放したユーザーの1割以上が「駐車場を確保できなかったため」と回答しており、二輪車業界としても見逃せない問題となっている。
保管場所としての駐車場が増えてきた
まずはじめに触れたいのは、近年、大きく変わってきた状況として、バイクの駐車場があるマンションやアパートを簡単に探し出せるようになったこと。この10年の間に、不動産・住宅情報サイトが目覚ましく発達し、膨大な物件を扱う有力サイトがネット上に林立している。この業界の成長に伴って、不動産の物件情報はどんどん充実し、借り手は自分好みの住宅を自由に検索して探し出すことが可能になった。
不動産・住宅情報サイトの大手である「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」には、マンション、アパート、売家、売地など、全国約650万件*注2もの情報が掲載されている。ユーザーはサイトの画面で、地域、賃料、間取り、築年数など希望の条件を設定して検索することで、物件を絞り込むことができる。
LIFULL HOME'Sを運営する株式会社LIFULL広報・野尻翔子さんは、「サイトには“こだわり条件”という検索機能があって、マンションならたとえば“2階以上”、“バスとトイレは別”といった部屋の仕様のほか、ペットの飼育や楽器の演奏が可能か、コンビニに近いかなど、条件項目は70以上あります。これらの条件を加えて検索すれば、より自分の希望に近い物件を探し出すことができます」という。
その“こだわり条件”の一つに「バイク置き場あり」という項目がある。この条件を追加して検索すれば、バイクの保管が可能なマンションやアパートだけを抽出することができる。バイクユーザーの住まい探しには、なくてはならない機能と言える。
野尻さんによると、「LIFULL HOME'Sに掲載されている全国の賃貸マンション・アパートの件数(建物棟数)は約91万件*注2あり、そのうち約22万件が“バイク置き場あり”の物件です(2018年12月21日現在)。全体のおよそ2割です」とのこと。
試しに、東京23区の賃貸マンション・アパート約9万7,000件*注2(建物棟数)のうち「バイク置き場あり」で絞り込むと、約1万8,000件*注2(設置率18.5%)がヒットした。18.5%が多いかどうかはおくとして、マップで表示してみると、自分に適した物件が選び出せそうなボリューム感はある。少なくとも数年前に、これほどバイク置き場のある物件が多いという印象はなかったはずだ。
※注2:サイトには、1つの物件を複数の不動産会社等が重複して掲載している場合があり、それぞれを1件としてカウントした件数が約650万件。このうち、賃貸マンション・アパートの建物棟数は全国で90万9,793件となる(2018年12月21日現在)。東京23区の9万7,000件、1万8,000件は建物棟数(同現在)。
なお、次ページの表にまとめたように、LIFULL HOME'S以外の不動産・住宅情報サイトでも「バイク置き場あり」で条件検索をすることができる。こうした情報サイトの充実が、少なからず“バイク置き場”拡大の後押しとなっていると考えられそうだ。
●主要な不動産・住宅情報サイト
※東京23 区内でバイク置き場ありを検索した結果(2018 年12 月17 日/本誌調べ)
※物件の件数はサイトによってカウント方法が異なるため比較はできない。検索結果数は日によって変動する。
「LIFULL HOME'S」のWeb サイト
物件が密集しているエリアがわかる
バイクの車庫事情が改善されてきたという話は、ここからが本題だ。前出のLIFULLは、ベンチャー精神にあふれた会社で、社員の事業アイデアと起業を応援する新規事業提案制度を設け、社内から提案された優秀なプランの事業化を進めている。
株式会社LIFULL SPACEは、そうして生まれた会社だ。同社は、季節ものの家財道具などを預ける“レンタル収納スペース”の物件情報をデータベース化し、検索機能をもったポータルサイト「LIFULLトランクルーム」を運営している。その事業の一環で、2014年には、トランクルームのバイク版である「バイクコンテナ」というポータルサイトも立ち上げた。
社長の奥村周平さんは、「トランクルームの市場全体では、物件数が毎年5~10%ずつ伸びており、まさに成長ビジネスです。現在、全国で約1万件のトランクルーム施設があると推計されており、この数はファミリーレストランやカラオケルームと同じ規模です。5年前、私がLIFULLに在籍していたころ、このビジネスはこれからどんどん伸びると感じて、事業アイデアを企画し、起業につなげたのです」と説明する。
そして、さらに注目したのがバイクの車庫需要。「トランクルームのサイト運営を始めたところ、『バイクも預けられますか』というユーザーのコメントがとても多く目についたので、バイクをキーワードにしてネットの検索ボリュームなどを調べてみた結果、トランクルームのバイク版としてサイトを独立させる価値があると判断しました」と、奥村さん。
同社の「バイクコンテナ」サイトには、スタート当初、掲載事業者は50社程度だったが、現在は倍の約100社に増え、物件の数は1都1道2府25県で合計約2,500件となっている。
「肌感覚ですが、バイクコンテナの数も毎年5~10%は増えていると思います。また、外部ツールを使った分析ですが、当サイトの検索ボリュームは2017年の25万回から、2018年には65万回に増加していますので、ユーザーからの注目度も上昇していると思います。バイクの保管場所を求める需要がそれだけ大きいわけで、コンテナを活用したバイクの車庫ビジネスは、まだまだ拡大が続くと考えています」と話している。
LIFULL SPACE の奥村さん
東京23 区内にもバイクコンテナが増えている
(写真は検索結果を地図に表示させた結果)
実際にバイクコンテナ事業を展開している会社にも話を聞いた。
「ハローストレージ」のブランド名で、トランクルーム事業を展開しているエリアリンク株式会社は、昨年10月、「バイク置き場不足の解消に寄与したい」とメッセージを発信し、バイク向けの車庫ビジネスへ本格的に取り組んでいる。
主力となるのはバイクコンテナの普及だが、ほかにも同社が運営するトランクルーム施設に併設したバイク置き場、自動車のコインパーキングの余地を活用したバイク置き場、マンション等の敷地を活用したバイク置き場、この4つのアプローチで取り組んでいくという。
東京都足立区に開設されたばかりの「ハローバイクボックス・足立竹ノ塚」を訪ねると、同社が運営するトランクルームの建物の裏手に、17台のバイクコンテナが置かれていた。それぞれに折り畳み式のスロープが付いており、車両の出し入れに手間はかからない。雨や風も気にせず、セキュリティ性も高いので、これなら大事な愛車を安心して保管しておくことができる。
同社・商品開発の小田切陽介さんは、「バイクコンテナは、この2年間で都内を中心に50カ所200台分を設置しました。一気に増やしている状況です。背景には、屋外トランクルームの敷地内に余ったスペースがあると、クルマが違法駐車したり、ゴミを不法投棄される問題があります。防止策として、そのスペースをバイクの駐車場にしたらどうだろうと考え、白線で枠を仕切って貸し出したところ、どこの施設もすぐに埋まったんです。私はバイクに乗らないので、こんなにバイク置き場に需要があるのかと驚きました」と話す。
白線だけの駐車枠は安価に提供できるメリットがあるが、バイクコンテナのほうは少々料金が高くとも、スポーツバイクや大型バイクなど、愛車を大事にするライダーから人気がある。稼働率は9割に近いという。
ちなみに竹ノ塚の物件は、道路から奥まった場所に開設されており、自動車だと出入りしづらいが、バイクならまったく問題ない。自動車の駐車場としてはレイアウトしづらい地形でも、バイクコンテナならば土地活用が可能になる。「自分の土地を活用しきれていなかったオーナーの方に、バイクコンテナはとくに喜ばれています。お客様も紳士的な方が多く、騒音などの苦情もほとんどありません」と、小田切さんは話している。
「ハローストレージ」もバイク車庫を後押し
17 台のバイクコンテナが並ぶ
コンテナのメリットを紹介する小田切さん
バイクコンテナなら奥まった場所でもOK
「スペースプラス」のブランド名で、トランクルーム事業を全国的に展開しているのが株式会社ランドピア。トランクルームを主力事業にしながら、バイクコンテナをサブビジネスとして位置づけ、その普及にも取り組んでいる。
同社の広報担当者は、「当社のトランクルームは、屋内型と屋外型と合わせて全国で約500カ所あるんですが、だいぶ以前から、その10~20%の部屋にはバイクが保管されていることがわかっていました。それだけニーズがあるなら、バイク専門のコンテナを商品化しようということで、2008年にオリジナルのバイク用コンテナを製造し、バイク用の保管庫として貸し出したのがはじまりです」と説明する。現在、関東、中部、関西圏を中心に、150カ所で約600台分を供用しているという。
東京都三鷹市に設置された「スペースプラス・バイクコンテナ三鷹野崎」を訪ねた。現地を案内した広報担当者は、「当社のバイクコンテナの大きさ(幅1.25m)は、自動車の駐車マス(幅2.5m)のちょうど2分の1なんです。つまり、クルマ1台の駐車枠があればバイクコンテナが2台設置できます。最近は自動車の駐車需要が低下しており、いくら料金を下げても埋まらないところが出てきています。そうした駐車枠をバイクコンテナに転用することで収益を上げることもできるのです」と話す。
また、一般的な屋外型のトランクルーム(コンテナタイプ)は、バイクコンテナの4倍の広さがあるため、土地にそれなりのスペースがないと設置できないが、バイクコンテナは狭小地にも設置できる。土地の広さや形を考えて、トランクルームをレイアウトしきれないスペースにバイクコンテナを併設すれば、無駄のない土地活用ができる。
中山さんは、「当社のトランクルームはすでに全国展開していますから、そこを足がかりにバイクコンテナを増やしていくことが可能だと考えています。年齢層が高くなって経済的に余裕のあるライダーが増えていますので、セキュリティ性の高いコンテナは、バイクの保管庫としてこれからまだ人気が出るはずです」と話す。土地の隙間を埋める便利な商材として、バイクコンテナの利用価値はことのほか高いようだ。
スペースプラスのWeb サイト
自動車駐車場の収益対策としても活用できる
最後に紹介するのは、株式会社バイクパーク。その名の通り、バイク専門の月極駐車場を運営する会社だ。同社は、二輪車の駐車場不足が深刻になったことをきかけに、2010年に創業。土地所有者から駐車場用地を借り受け、同社が二輪車の月極駐車場として整備して供用、管理する方式だ。月額で一定の借地料をオーナーに支払う一方、駐車料金は同社の収入になる。オーナーは土地活用ができ、バイクパークには収益が生まれ、ユーザーはバイクの保管場所を確保できる。バイク駐車場がほとんど見当たらない時期にスタートしただけに、業績は年々大きく伸長。取り扱い物件の数は、グラフに示した通り、2010年から2018年まで急拡大を続けている。
●バイクパークの駐車場箇所数・収容台数の推移
同社営業の八重尾健さんは、「都内の道路という道路をバイクでくまなく走って、駐車場になりそうなスペースを探します。ほかの用途では活用できそうにない土地でも、バイク1台からの駐車場になります。たとえば自動車のコインパーキングの敷地には、使いきれていないスペースがありがちです。そこに白線で枠を設ければ、バイクの月極駐車場として貸し出せます。また、マンションのオーナーがバイク置き場を設置した際に、枠が埋まらなければ居住者以外にも貸し出すことができます。とにかくいろいろなアプローチでデッドスペースをみつけ、バイクの月極駐車場をつくっているのです。今後、取り扱い物件数10万件を目指して開拓していきます」と話す。
なお、同社の事業が急速に伸びている要因として、取り扱い物件を月極駐車場に限っている点が大きい。つまり、時間貸し駐車場だと、チェーンロックや料金精算機などの設備が必要で、採算性を確保するのが難しく、月極駐車場ならばそうした問題にとらわれずに低コストでスピーディな開設が可能だからだ。
●バイクパークの会社パンフレットより
※街なかのさまざまな空間がバイクの駐車スペースに変わる。三角地、狭 小地など、実際に歩いて未利用地を探し出すという。
八重尾さんは、「民間で開拓できるところと、行政が取り組むべきところと、だんだん明確になってきたと思います。時間貸しのバイク駐車場を増やすためには、行政の取り組みや協力が不可欠ではないでしょうか」と、今後の課題についても指摘していた。
ここまで見てきたように、不動産・住宅情報会社、トランクルーム事業者、二輪車駐車場運営会社、こうした企業がそれぞれ事業を進め、あるいは連携して取り組み、バイクの保管場所確保を支えている。今後もその動向に注目していきたい。
「バイクパーク」のWeb サイト
マンションの駐車場を一般供用することも
「バイクパーク」のWeb サイト
マンションの駐車場を一般供用することも
本ページは、一般社団法人日本自動車工業会が発行している月刊誌「Motorcycle Information」2019年1-2月号の記事を掲載しております。